一等
平井久子早稲田大学 27歳
茶の湯はもともとコミュニケーションの手だてであった。ひとたび茶室の踊り口をくぐると、そこは身分の隔てのない世界であることを理想とした。天下人も一介の町人も、お互いひとりの人間として自由な話し合いができる場が茶室なのであった。
茶室空間はそのどんな細部も、また小さな道具ひとつに至るまで、極めて洗練されたものであった。そうした場での人間と人間との出会いは、感性を高め、精神を高揚させずにはおかないものがあったであろう。後生、その洗練さを保つために、儀式化、様式化、作法化された茶の湯であるが、それもそもそもは、高いレベルでの自由な精神と場を獲得するための手続きなのであった。
身分の上下が消滅した現代、人と人との出会いに煩雑な手続きは必要なくなっているであろう。しかし本当に人と人とが、純粋に人間同士として話し合える場が、現代に存在しているであろうか。一期一会の精神が現代に生きているであろうか。
そう固苦しく考えなくとも、茶の初心、つまり対等なコミュニケーションの場として茶室を甦らせることは、現代社会にとっても意義あることと考えられる。踊り口をくぐるまでもなく、対等に自由に話し合うことのできる現代の茶室をつくり出そうではないか。
それは独立した本来の茶室を粧ってもよいし、住宅の中、ビルの中の一室あるいは数室であってもよい。また公園の中など公共空間に設けられるものであってもよい。材料や構造、平面計画も、現代の茶室の意義を表現するものであるならば、自由に選択、構成してよい。
創造力豊かな応募案が寄せられることを期待している。
審査委員長 | 芦原 義信 | 武蔵野美術大学教授 |
審査委員 | 大高 正人 | 大高建築設計事務所所長 |
審査委員 | 黒川 紀章 | 黒川紀章建築都市設計事務所所長 |
審査委員 | 宮脇 檀 | 宮脇檀建築研究室所長 |
審査委員 | 相田 武文 | 相田武文設計研究所所長 |
審査委員 | 相臺淳吉 | 日新工業社長 |