一等
New Balance Network
中江研神戸大学大学院 22歳
馬場正尊早稲田大学大学院 23歳
かつて家には記憶が住んでいた。 大黒柱のあるような家だけでなく、長屋にも、記憶が住んでいた。人びとの生活とともに大黒柱のあるような家だけでなく、長屋にも、記憶が住んでいた。人びとの生活とともに生じた喜怒哀楽は、柱の疵や隅の暗がりに染み込み、住み続けている人にはもちろん、代が替わっても、そこで行われていた生活が何であったのかを感じさせてくれた。生活の律を、その家に住む記憶が保持する役割を果たしていたのである。
そうした記憶は、また、神や仏に姿を借りて家に住んでいた。神棚、仏壇、荒神様、水神様など、単にアミニズムではなく、社会かされた記憶でもあった。それぞれに祈りを上げることは、それにまつわる記憶を呼び戻す作法でもあったのである。そして人間はひとりだけで生きているのではない明石を、日々の祈りのなかから感じ取っていた。
翻って現代、2DKのアパートに、あるいは近代化された手法によって設計された家に、記憶は住み得るであろうか。テレビの置くところはあっても、仏壇の置くところがないのが現代住宅である。新建材には歴史も汚れも染み込まない。ガスレンジに荒神様は相応しくないし、ステンレスとタイルの台所に水神様は似つかわしくない。生活が本当に潤いのある満たされたものになるには、記憶が宿る何かが必要なのではないだろうか。
今回の課題「記憶の住む家」は、現代の手法と材料によって、どのように記憶の住み得る家をつくることができるだろうか、という問いかけである。もちろんそれは、かつてのような家に戻れということではない。あくまでも前向きに、未来に向かって記憶が住み得るような家を考えて欲しいということである。多分そこには、過去の家とも現代住宅ともまったく違った様相のあり方が見られるに違いない。
イマジネーションに溢れる「記憶の住む家」の提案を期待している。
審査委員長 | 芦原 義信 | 芦原建築設計研究所所長 |
審査委員 | 大高 正人 | 大高建築設計事務所所長 |
審査委員 | 黒川 紀章 | 黒川紀章建築都市設計事務所所長 |
審査委員 | 高松 伸 | 高松伸建築設計事務所所長 |
審査委員 | 横川 健 | 横川設計工房所長 |
審査委員 | 竹山 聖 | 京都大学助教授 |
審査委員 | 相臺 淳吉 | 日新工業社長 |