一等
富沢正和早稲田大学 理工学研究科修士2年・24歳
近代建築史にその名を残す住宅はすべて、たとえ田園や森のなかに建てられたものでも、その存在の根本において都市住宅であった、ということができる。なぜなら、それらは常に生活者との関係を問い直してきたものだったからだ。ここで、耕す人、さらには、きこり、漁する人、遊牧する人などの家を構想することは、近代住宅を改めて問い直し、そのオルタナティヴを見出そうとする試みなのである。
それは同時に、土地や地表のあり方を見直す作業ともなる。われわれの生活する地表は、生産と消費のための「都市」と、聖域としての「自然」の両極に分割されているのではない。たとえば、この国のいたるところに見かけられる宅地と農耕地が互いに背を向けて共存する悲劇的な風景を、快適な都市と公園に変貌させる物語の挿し絵を描くことはたやすいだろう。だがそうではなく、私たちすべての意識と存在の根底を揺さぶるようなイメージを描くことはできないだろうか。
それらはすべて、「耕す」という行為から人間の存在をとらえ直すことにつながるだろう。もちろん、耕す対象を物理的な大地から、より精神的なものへ、メタフィジカルなものへと敷えんさせることも可能だ。そのとき、「耕す人の家」は、大地と天空の物語に満ちた詩的な空間となることだろう。
そもそも「文化=culture」とは、「耕す=cultivate」ということではなかったか。人間とは、その存在の根本に置いて、耕す者なのである。
相違あふれる提案を期待する。
審査委員長 | 香山 壽夫 | 建築家 |
審査委員 | 長谷川 逸子 | 建築家 |
審査委員 | 北川原 温 | 建築家 |
審査委員 | 岸 和郎 | 建築家 |
審査委員 | 佐野 吉彦 | 建築家 |
審査委員 | 相臺 公豊 | 日新工業株式会社社長 |
コーディネーター | 馬場 璋造 | 建築情報システム研究所 |