一等
桐野勝敏green LABEL・27歳
現代社会において、スピードは力であり、常にアドバンテージを生むものである。とはいえ、化石燃料を消費し排気ガスを巻き散らす車が今以上に速い必要はない。力となる速さとは、情報処理や通信における速さであり、単純にいえばコンピューターの速さである。
果たしてそのスピードが本当に必要か、という議論は、これまでも何度も繰り返されてきた。デスクの上の小さなコンピュータでさえ、その処理速度は思考のスピードを遥かに超えていると感じることがある。膨大かつ精密なアウトプットに圧倒されて、人は時として判断力を失う。
しかし、そのスピードが必要か否かを問う以前に、既にわれわれの現実の生活、リアリティは、抗し難くそのスピードの力によってストラクチャライズされていることを知るべきである。もはや後戻りはできないのだ。ディスプレイの向こう側に広がるサイバースペースの可能性はまさに、この力に支えられている。
その意味で、今回の課題「ゆっくりと」が求めるものは、スピードの短絡的な否定ではあり得ない。森の生活に戻るのではなく、あえていえば、ウォークマンを聴き、ノートパソコンと携帯電話を携えて、都市という名の森を自転車で駆け抜けるイメージである。
あるいは、高速で動くものに対する速度の差、時間のずれの中に見出されるもうひとつのリアリティ。非在で不可視なものを垣間みさせる、具体的な場所と実体的な形。より積極的な「ゆっくりと」を建築として構想してほしい。
審査委員長 | 香山 壽夫 | 建築家 |
審査委員 | 長谷川 逸子 | 建築家 |
審査委員 | 北川原 温 | 建築家 |
審査委員 | 岸 和郎 | 建築家 |
審査委員 | 佐野 吉彦 | 建築家 |
審査委員 | 相臺 公豊 | 日新工業株式会社社長 |