テーマ

LIVING upon the HISTORY
歴史のうえに暮らす

課題文

今年のテーマは、「歴史のうえに暮らす」です。私たちが住み、暮らしている場所には長い歴史が横たわっています。私たちはその場所の歴史的蓄積のうえに今の暮らしを築いてきました。経済や産業が急速に発展した20世紀は、それまでの歴史と決別し、新しい世界を組み立てようとしました。しかし、人間は歴史と決別することはできず、そのうえに立っているのだということが反省として語られるようになり、現在に至っているとも言えるでしょう。

 

人間の歴史、国家の歴史、社会の歴史、都市の歴史、街の歴史、土地の歴史、暮らしの歴史、家の歴史、家族の歴史・・・。歴史といってもさまざまです。それぞれの歴史において、人間の経験が空間と折り重なって織り上げられています。

 

今日、そうした歴史のうえに暮らすということはどういうことなのか。それは現代においてどのような空間と時間として表現可能なのか。みなさんの提案をお待ちしています。

 

審査委員コメント

ヨーロッパの街では、街に関わった偉人や出来事を記念した建造物が、後世に残ります。都市とは、大きなお屋敷や広場、教会など、さまざまな記念碑が集まった集合体なので、そこに暮らせば街の歴史がわかり、街の成り立ちがわかります。私たちは現在的空間の中に住むだけでなく、時間の中にも住んでいます。家でも銭湯でも駅舎でも、どのようなものでもよいので、あなたの街の歴史と未来につながる暮らし、時空間のなかの建築を考えてみてください。

― 西沢立衛

歴史は英語で言うとHistoryですが、この言葉には人びとの営みとしての歴史という意味以外にも、時間の流れの中で不可逆的に刻まれてきたこと、例えば生物進化の流れとか、履歴という意味合いもあります。そんなさまざまな時間の痕跡を表す言葉として歴史というものを捉えるとき、どんな提案が生まれるでしょうか。

― 平田晃久

15世紀のルネサンスや18世紀の新古典主義、20世紀のポストモダンなど、我々建築家はこれまで幾度となく「歴史」への傾倒を繰り返してきた。しかしそれらはいずれも西欧中心の歴史観に根ざすものである。そうではない建築を見てみたい。またベストセラー『サピエンス全史』を挙げるまでもなく、歴史という概念そのものの拡張も起こっている。今、「新しい歴史」にどう向き合うべきか考えて欲しい。

― 吉村靖孝

性格とは価値判断の様式であり、人格とはその判断の連続により形成される、いわば人の歴史です。歴史も価値判断や解釈の連続が生み出すものであり、その対象の性格を決めるものです。歴史のうえに暮らすとは、解釈の連続にどう応え、これからの暮らしをどう性格付け、様式を決めるのかを問う本質的な課題です。その根本に迫る提案を期待します。

― 羽鳥達也

歴史を可視化することは一般に良きこととされていますが、自らに都合よく可視化することで軋礫を生むこともあります。書物にしかない歴史もあれば、書物にない歴史もあり、近年では人類史を超えた歴史の中で人類史を相対化する議論もあります。建築を使って、どんな歴史を可視化するのか。豊かな想像力との出会いに期待しています。

― 藤村龍至

過去の蓄積のうえに立つ私たちは、通常それを意識せず暮らしています。しかし皆さんはそこに留まらず、過去、そして未来に目を向けてみてください。古きものを忘れず、土地や人が持つ歴史を未来へ紡ぐことも、建築に携わる者の使命かもしれません。熱意ある提案をお待ちしています。

― 相臺公豊

 
 

結果発表

一等

NOËL PICAPERNoël Picaper - Floating Fantasy

MARION JAMAULTMarion Jamault

二等

肖 雅露Southwest Jiaotong University

三等

入江 慎東京理科大学大学院

佳作

OMRY SPASSERAtelier SAO

SAI ALONAtelier SAO

ZOHAR ISENBERGAtelier SAO

佳作

熊 洋羊Urbanus, ShenZhen

石 宪AECOM, HONG KONG

佳作

MEOR MOHD HARIS KAMARUL BAHRINMike Foxtrot Imaginarium

FARAH ALIZA BINTI BADARUDDINMike Foxtrot Imaginarium

佳作

瞿 思宇Freelance

孙 利昢昢Freelance

VLANKA CATALANFreelance

佳作

倉岡 泰大Méga

佳作

朱 一君東京大学大学院

雷 楠Shigeru Ban Architects New York

佳作

翁 世俊SAI

作品講評

西沢立衛 審査委員長

PICAPER・JAMAULT案(1等)は,建築物を自然史の上に位置付け直すという提案で,原初的・生命的な喜びをふたたび呼び覚ますような建築が提示された.課題に対してストレートかつユーモアに富んだ提案として,高く評価された.肖案(2等)は,広東語を保存し研究する美術館の提案で,話し言葉,音声言語に着目した点が評価された.入江案(3等)は,渋谷の風俗街と住宅地のせめぎ合いをテーマにしたもので,廃墟化した風俗店が子どもの遊び場に変わっていくシーンをシニカルに描いた.熊・石案(佳作)は,歴史上のさまざまな有名建築物が1枚の絵にまとめられた.内容というよりも絵1枚の力があり評価された.倉岡案(佳作)は,緑化された巨大建築の提案で,自然を取り入れる立体的建築構成を断面図1枚で明快に示した.朱・雷案(佳作)は,中国の故事から着想した曲線からつくられた現代的な家の提案で,中国の今と伝統の両方を感じさせる作品であった.翁案(佳作)は,埋め立てによって刻々と拡張していく香港の護岸のレイヤーを利用して,人びとが集まる場所を提案したもので,香港の近代化の歴史をダイレクトに伝える土木的ダイナミズムが印象的だった.

平田晃久 審査委員

応募作品のクオリティは高く,刺激的な審査会だった.ポストモダンの反動からか,近年の日本では時の厚みと建築について語られることが少なかった.しかし建築は現在のコミュニティのみに捧げられるものではなく,「歴史」をスルーし続けることはできない.今回,入選者のほとんどが海外勢だったことは,日本現代建築への批評として受け取るべきものなのかもしれない.
2等となった肖案は歴史というテーマを,方言を発話する音の空間として解釈した,課題に正面から取り組む提案だった.音のための空間というにはやや画一的な感じが残っていたのが,惜しくも1等を逃す要因となったのだが,格調の高い作品である.
他方,1等のPICAPER・JAMAULT案は,歴史というものを人類史の問題に接続し,人間と動物の間のような存在としての幼児の思考に着目した,知的な提案である.意識と無意識の間とか自然というものに近づく建築を考えている点では,日本の建築的思考に近いところもあるが,周到さとやわらかさが共存した完成度の点で際立っていた.
3等の入江案は渋谷を舞台に,法制度を利用して,子どもたちの場所を点在させていくことによって,風俗店の繁殖を免疫機構的に抑える提案である.作者は,そのプロセスの結果生まれるさまざまな履歴の重ね合わせが,シュールレアリズム的に共存する魅力的な都市像を描いてみせた.
ここには書ききれないが,その他の,とりわけドローイングが秀逸な案など,たくさんの魅力的な案に出会うことができた.自分としても考えるべき課題をもらえたような気がしている.

吉村靖孝 審査委員

暮らしを構成する3つの要素「衣・食・住」の中でも,建ててから壊すまでの期間がとりわけ長い「住(=建築)」は,もともと歴史化しやすい性質を持っている.一方,そこで営まれる生活は日々うつろい続け,普通は歴史と縁遠い.ソリッドな「歴史」とフルイドな「暮らし」を結ぶ難しい課題だった.しかし蓋を開けてみると,知的で美しい提案が数多く集まっており,建築に生来備わった歴史性を巧みに脱臼する案や,暮らしのなかに潜在していた歴史性を構造化する案に何度も唸らされた.PICAPER・JAMAULT案(1等)は「暮らし」をつくる主体である人間そのもののなかに歴史的な時間軸が潜んでいることを見抜き,建築がその歴史を取り出すための触媒になるという案.肖案(2等)は消えゆく方言の維持装置としての建築である.個人的に強く印象に残った入江案(3等)は,ネガティブな街の歴史を抹消しようと企むポリティカル・コレクトネスに便乗しながらも抗い,両者を強引に縫合したような新しい風景を構築するダーティリアリズム.なんでもかんでも手軽にNIMBY化させてしまう現代社会に対する批評でもある.パースの狂ったどこかぎこちないコラージュのような表現も的確である.また表現力で言えば,佳作に並んだ作品群も負けていない.歴史と暮らしの間に横たわる深い溝を架橋しながら,想像の限界をその橋のずっと先まで押し広げてくれるたいへん優れたものだった.

羽鳥達也 審査委員

「歴史のうえに暮らす」というテーマは,歴史の解釈次第であらゆる提案を包摂できるテーマであった.歴史の解釈に独自性があったもの,歴史を象徴するものを形にすることを試みたもの,都市や建築の近現代の課題や変化を鋭く捉えたもの,おのおのが解釈した歴史そのものをドローイングひとつで表現したものなど,海外からの応募が5割を超えていたこともあり,多様な視点,表現の作品が多数集まった.
1等のPICAPER・JAMAULT案は,プリミティブな生活を集積したような提案だが,個々人の生活や人生が垣間見える街並みが土地の歴史となったら,とても興味深い街になるだろう.一方で,統一感のある景観といったものが,構法や表現の選択肢が増えた現代で,一体誰のためにどういった意味を持つのか.建築技術の存在意義はこうした個人の投影にあるのではないかと思わされた.
2等の肖案は,直接的には見えないし,形にもできない言葉の音をなんとか形にしようと試みた案.確かに音は時代を区分し,表現する重要な要素である.着眼点に感心させられた.入江案(3等)は,渋谷特有の状況を逆手にとって,多様な人が行き交う空間をつくる方法論が,独特のドローイングと共に提示されており,都市の歴史はその時々の課題解決の集積であることを再認識させられた.
審査では自由な解釈を許す,説明的でない表現の提案が評価されやすい傾向にあった.コンペらしいとも言える結果だが,新たな解釈を生むヴィジョンを示すことこそ,建築家にとって重要な能力だと改めて思わされた.そうした能力が,これからの歴史のうえでの豊かな暮らしを引き寄せる原動力であり続けるのは,間違いないと思えた審査だった.

藤村龍至 審査委員

想像力の大きさとともに,絵の強さが問われていると感じた審査であった.想像力の大きさとは,身近なというよりは大きな時空間へと視界を広げ,複数のアイデアを並列するというよりは,積極的に統合していくような想像力のことである.そして絵の強さとは,小さな絵をたくさん描くというよりは画面いっぱいに複層化された1枚の絵の複雑さのようなものではないかと思う.
1等のPICAPER・JAMAULT案は少し完結的であるが,たくさんのエレメントを設定し,それらをゆるやかに統合する幻想的な構造体と,ストレートな過去への眼差しというよりはそれを用いつつ未来を提案する積極的な姿勢が共感を生んだように思う.
SPASSER・ALON・ISENBERG案(佳作)は「人と地球が出会う場所」として母体や子宮がモチーフとなり,病院と銭湯,それを支える設備のようなものが地球のマグマの上に直接浮かんでいるような,いわば建築化された子宮のようなものが描かれた絵となっている.歴史や未来というよりは現在を批評する絵であろうか.
KAMARUL BAHRIN・BADARUDDIN案(佳作)は,田園風景のなかに工業化社会を連想させるエレメントが集合し,全体はレールの上に乗っていて移動を示唆させる絵であった.提案は受け取りにくかったかもしれないが,読み取りを促す面白さがある.
歴史的な場所を探してきてそこに住まうというもの,「歴史」そのものの解釈に対する提案も見られたが,最終的には歴史を見つめるまなざしを用いて過去を批評し,未来を描こうとする提案が共感を呼んでいたのではないかと思う.

 
 

受賞作品展示会

会場 建築会館ギャラリー アクセス
期間

2019年2月12日(火)~2019年2月15日(金)

時間

2019年2月12日(火)10:30~19:30

2019年2月13日(水)9:00~19:30

2019年2月14日(木)9:00~19:30

2019年2月15日(金)9:00~16:00

 

賞金

  • 1等[1点]
  •  
  • 100万円
  • 2等[1点]
  •  
  • 50万円
  • 3等[1点]
  •  
  • 30万円
  • 佳作[8点]
  •  
  • 各10万円
全て税込
  • 「新建築」2019年1月号で発表
  •  建築会館ギャラリーにて展示:2019年2月12日(火)~ 15日(金)
 

スケジュール

応募登録期間 2018年4月2日(月)~ 2018年10月1日(月)
作品提出期間 2018年8月20日(月)~ 2018年10月5日(金)必着
審査結果 審査の結果は入選者に通知いたします
表彰式 2018年11月14日(水)
発表 『新建築』2019年1月号で発表いたします
 

応募要項

登録方法

インターネットにて登録の場合は、本サイトの登録フォームよりご登録ください。

官製ハガキにて登録の場合は、下記作品送付先までご登録ください。

FAXにて登録の場合は、03(5244)9338までご登録ください。

  • インターネット登録には、「KENCHIKU」サイトのID・パスワードが必要となります。
    お持ちでない方は、ID・パスワードを登録後、本コンペの登録を行ってください。
  • 官製ハガキとFAXにて登録の場合「日新工業建築設計競技係」と明記し、住所、氏名(ふりがな)、年齢、電話番号、勤務先あるいは学校名(学年)、所在地、電話番号、e-mailアドレスを書き添えてお申し込みください。
  • ご登録いただいた方には登録票をお送りいたします。
  • 複数の作品を応募する場合は、作品ごとに登録してください。
  • 登録のお問合せ:日新工業建築設計競技事務局|03-5244-9335
提出図面

配置図・平面図・立面図・断面図、透視図・模型写真など、設計意図を表現する図面(説明はできるだけ図面のみですること。各図面の縮尺は自由)。表現方法は、青焼、鉛筆、インキング、着色、写真貼付、プリントアウトなど自由。

用紙

A2サイズ(420mm×594mm)の用紙(中判ケント紙あるいはそれに類する厚紙)1枚におさめること。模造紙等の薄い用紙は開封時に痛む恐れがあるので避けること。ただし、パネル化・額装は不可。

登録番号の記載

応募図面の表面右下に、30ポイント以上の文字の大きさで登録番号のみを明記すること(登録番号はNからはじまる5桁の数字を明記。また、登録番号以外の応募者を特定できる情報は記載しないこと)。また、裏面には必要事項を記入した登録票を必ず貼付けること。

質疑

課題に対する質疑応答はいたしません。
規定外の問題は応募者が自由に決定すること。

提出方法

応募作品裏面に必要事項を記入した登録票を貼付けた上、下記へ送付してください。
(※持込み、バイク便は不可。なお、開封時に痛みやすいため、円筒状の梱包はご遠慮ください)

作品送付先

日新工業株式会社「日新工業建築設計競技係」 [必ず明記のこと]

〒120-0025 東京都足立区千住東2-23-4
TEL:03(3882)2613

その他
  • 応募作品は未発表の作品に限ります。
  • 本設計競技の応募作品の著作権は応募者に帰属しますが、入賞作品の発表に関する権利は主催者が保有します。
  • 応募作品は返却いたしません。
  • 同一作品の他設計競技との二重応募は失格となります。
  • 応募作品の一部あるいは全部が、他者の著作権を侵害するものであってはなりません。また、雑誌や書籍、Webページ等の著作物から複写した画像を使用しないこと。著作権侵害の恐れがある場合は、主催者の判断により入賞を取り消すことがあります。
  • 入賞後に著作権侵害やその他の疑義が発覚した場合は、すべて応募者の責任となります。
  • 入賞後の応募者による登録内容の変更は受け付けません。
  • 応募に関する費用(送付・税金・保険など)は、すべて応募者の負担となります。
 

審査委員

審査委員長

西沢 立衛

Ryue Nishizawa

審査員

平田 晃久

Akihisa Hirata

審査員

吉村 靖孝

Yasutaka Yoshimura

審査員

羽鳥 達也

Tatsuya Hatori

審査員

藤村 龍至

Ryuji Fujimura

審査員

相臺 公豊

Kimitaka Sohdai

応募登録終了
2018年10月1日