遊びのうえに暮らす コンペ開催期間 2020年4月-2021年1月

LIVING upon the PLAY コンペ開催期間 2020年4月-2021年1月

LIVING upon the PLAY

テーマ

遊びのうえに暮らす

「遊び」には、幼児のように戯れること、仲間と楽しく過ごすこと、酒や賭博などに耽ること、仕事や勉強の合間、物事にゆとりのあること、文学や芸術など世間から遊離した美を求めること、機械などの部品の結合にゆとりをもたせることなど、さまざまな意味があります。

 

ただ、いずれにしても、機能性や合理性を追い求めることとはうらはらの、人間味あふれる行為で、生きるための根源のようなものと言えるでしょう。


ヨハン・ホイジンガが著した『ホモ・ルーデンス』(中公文庫、1973年)では、「文化は遊びのなかにおいて、遊びとして発生し、展開してきた」「遊びが生活のなかで大きな意味を持っていること、それがある必然的な使命を負っていること」「自然は……(中略)……緊張、歓び、面白さというものをもった遊びを与えてくれた」と書かれています。


この人間活動の本質とも言える「遊び」から暮らしを考えてください。


「遊び」を考えることで住むことの可能性が広がるでしょうし、これからの暮らしにヒントを与えてくれるでしょう。


みなさんの提案をお待ちしています。

 

審査委員コメント

遊びというものは、考えれば考えるほど、われわれの存在のもっとも根底にあるもののような気がしてくるから不思議です。現代社会の遊びについて着目するのでもよいし、人類が昔から続けてきた変わらぬ遊びについて考えるのでもよいですが、遊びの本質に迫るような建築や空間の提案を期待します。

― 西沢立衛

仕事と遊びの境界は、限りなく曖昧になりつつある。テクノロジーが人類をルーティンワークから解放すればするほど、そうなっていくだろう。目的など明確にない中で、何らかの興味深さや幸せさや楽しみに向けて、意識が集中の度合いを高めるのはどのようにしてか。遊びという謎の持つ魅力はどんな空間を生むだろうか。

― 平田晃久

「遊び」には自由を求める側面がありますが、他方、野球やサッカーなどルールがなければ成立しない「遊び」もあります。カイヨワは、このような遊びの両義的性質をパイディア(自由)、ルドゥス(規制)と呼び、さらにミミクリ、イリンクス、アゴン、アレアという4つの「かた」を見い出しました。
「遊び」という漠然とした言葉を扱いにくく感じたら、そういった先人の分析を参照してもよいでしょう。厳密で真剣な「遊び」を期待します。

― 吉村靖孝

ホイジンガは「ホモ・ルーデンス」の中で、遊び − 真面目の転回について述べているが、今日、あらゆる遊びは巧妙に役立つものに仕立てられ、遊びのような真面目に占められているように見える。ホイジンガは遊びから幻想を奪い去る遊び破り(スポイル・ポート)を取り上げているが、真面目に埋め尽くされた今、必要なのはそれを打ち破る「真面目破り」ではないだろうか。

― 羽鳥達也

1988年「くうねるあそぶ。」という自動車広告のコピーが流行った。落語の前座噺にある「食寝処住処(くうねるところにすむところ)」に「遊ぶ」を加えたのだという。昭和天皇の病状悪化による自粛ムードの中でCMのある台詞が不謹慎とされ、音が消され文字だけが残された。再び自粛ムードの社会で「遊び」を考えることは、安易な共感を疑う機会になろう。

― 藤村龍至

孔子の言葉に「道を志し、徳に拠り、芸に遊ぶ」とあります。古来、六芸という教養を楽しむことが、真の君子の嗜みであるとされてきました。文明の発達の過程で「六芸」、「遊び」の概念も変化してきました。クリエイティブな発想も「遊び」という心のゆとりから生まれるものだと思います。現代における「遊び」とは何か、創造性豊かな解釈を期待しています。

― 相臺志浩

 

結果発表

一等

福留 愛横浜国立大学大学院 / iii architects

二等

菊池 凌平フリーランス

小林 友哉フリーランス

三等

髙橋 雅人株式会社齋藤和哉建築設計事務所

佳作

白鳥 恵理白鳥建築設計研究室

山口 一紀フリーランス

佳作

市倉 隆平Massachusetts Institute of Technology

佳作

TOM COUTANTENSAS

ELISE DALMASSOENSAS

佳作

和久 正義早稲田大学大学院

髙橋 まりStudio Mark Randel

佳作

ARDY HARTONO KURNIAWANdua studio

ADWITYA DIMAS SATRIAdua studio

WILUSTY TENGARAdua studio

ELLYSHIA CANDRAdua studio

NADYA WINAGAdua studio

佳作

杉山 翔太信州大学大学院

酒向 正都信州大学

佳作

中谷 哲也Go A do

佳作

HASEEF RAFIEIVeritas Architects

作品講評

西沢立衛 審査委員長

今回のテーマ「遊び」は,難しかったかもしれない.応募数は例年より多かったが,驚くような提案は少なかった.その中でも1等を獲得した福留案は,非日常的な大きさを住居の中に持ち込むことで,機能を超えた建築を示すという案で,ドローイングの魅力と共に評価された.菊池・小林案(2等)は,街なかに○○ボックスを置く案で,その乾いた現代性と日本的想像力が特徴と感じた.髙橋案(3等)は,日本語文章の順列組み合わせのバリエーションから,さまざまな可能性の空間を見出すという案で,機能や意味を超えた空間の提示が新鮮だった.白鳥・山口案(佳作)は,遊び=プレイ=演劇という連想から,第四の壁を取り払った集合住宅を提案した.アイデアが面白く,現実と虚構の一体感が面白い案だったが,多少暗かった.もう少し明るく力強くやってほしい.COUTANT・DALMASSO案(佳作)は「未確認遊び物体」の提案で,ほとんどナンセンスかもしれないが,暴力的というかなんというか,明るくユーモアがあった.和久・髙橋案(佳作)はトマソンユニットの提案で,もう少し鋭い展開があればさらに高く評価されたはずだ.杉山・酒向案(佳作)は,雨漏り住宅の提案で,あちこちから漏れてくる水を室内で楽しむという,現実なのかフィクションなのか,どちらとも取れるブラックさがあった.中谷案(佳作)は,今回の入選作の中では珍しく造形で勝負する案で,自由な形づくりにセンスを感じた.RAFIEI案(佳作)は,街の表面と中身のギャップをエッシャー的図法で鋭く示した.

平田晃久 審査委員

遊びという言葉の外延は広く,応募者も思いのほか手こずったのかもしれない.応募数はとても多く素晴らしかったのだが,お,そう来たか,という意外性を持った案は,多くはなかった.言葉の意味に過度に引っ張られてしまったのかもしれない.建築には概念を押し広げ,変化させるようなところがあり,単に言葉の解釈を空間化する以上のことが,可能なはずなのだ.
その点,1等の福留案は空間の大きさを少しだけずらすことによって,ありそうでなかった,ものと人のプレイフルな関係をつくり出している.初見では,大きさの設定がやや中途半端に見えたのだが,よく見てみると,その微妙な大きさの拡張が「余白」を意味する遊びの外延とも共鳴し,案全体が遊びの概念を拡張させるように見えはじめたから不思議だ.3等の髙橋案は,通常の空間を記述する言葉の組み合わせをシャッフルすることで生成されてしまう,謎の空間を提示する.ルルスやライプニッツの結合術(アルス・コンビナトリア)にも通じる発見のための方法が,大真面目な中に笑いを生み出す.
市倉案(佳作)は舟を解体するプロセスを建築的に遊ぶアイデアである.構築物の消滅を建築化するという遊びに満ちた発想に好感を持った(この舟は解体途中で沈みはしないのか,などの疑問もあるが).
中谷案(佳作)は躯体の素材感が画一的だったり,幾何学が強く見えすぎて表現は少し硬いが,興味深い空間だと感じた.久々にリアルで集まった審査過程は単純に楽しく,言葉と建築的想像力の関係を考えるよい機会となった.

吉村靖孝 審査委員

福留案(1等)には,見れば見るほど引き込まれた.応募案の大多数が壮大な建築的遊戯の創出に没頭するのを尻目に,「大きさ」という,建築にとってもっとも根源的なパラメーターのチューニングとは,拍子抜けするくらい単純な操作である.描画の素朴さも相まって,はじめは見落としていたほどだ.しかし,その素朴さに潜む洗練と狂気は,彼女が日常生活の裏側に潜ませた「非日常の大きさ」にちょうど重なる.建築に「遊ばれる」という言葉の選び方も秀逸で,出題側の視点を裏返すようなふてぶてしさがよい.菊池・小林案(2等)は,ウィズ・コロナ時代のひとり遊びを映し出しているように見えた.作者自身は〇〇ボックスを「人間味の溢れた遊びの場」と呼んでしまっているので,実のところどこまで皮肉を込めたのかは不明だが,戯画化したイラストはどこかものがなしく,近未来のディストピアを描いたようにも見えた.また,白鳥・山口案(佳作)は,日常生活の演劇性を縁取るプロセニアムの提案で,つまり,すでに暮らしの中に潜んでいる「遊び」を炙り出している.「遊びのうえに暮らす」という課題そのものは,この重々しいコロナ禍に不釣り合いなほど軽々しく響くのだが,入賞を果たした案はどれも,鋭い批評を宿しているように見えた.ギリシア喜劇が必ずしも単に楽しい笑いを意味しないのと同様,「遊び」も単なる余暇や娯楽を意味しないことを再確認することができた.

羽鳥達也 審査委員

「遊び」を考えることで生活や暮らしが新しく解釈されたり,逆に生活や暮らしを捉え直すことで新たな視座をもたらすような「遊び」が見出されたりと,そうした試みが集まることを期待したが,建築自体の再解釈に迫る提案は少なかったように感じた.上位には「遊び」とは何か,そしてそれを契機として建築とは何なのかを問う意義を持ったものが選ばれたように思う.これまで建築家たちが寸法や比と人の感覚との神秘的な関係を追求してきたように,選んだ材料に位置と寸法を与えることが設計でできることだし,それこそが設計の本質だと思う.
こうした点で1等の福留案は,空間の寸法を操作すること,ほぼそれだけで「遊び」につながることを示した点が強い.建築と「遊び」の間に不純物がなく,生活そのものが空間によって遊びに転じうることを示したドローイングと,その解釈に繋がった気づきを記した短い文章は,抽象的で虚構的だからこそ,見る人それぞれの解釈を許す.それが各々に普遍性やリアリティを感じさせ,高い評価に繋がったと思う.その大きさや表現が,とても今日的だとも感じた.
対照的に,ひとりで行うことを小さな箱にそれぞれ割り当てた菊池・小林案(2等)が扱ったのは,決まりに従わせる力が強い「ルドゥス」寄りの遊びであろう.絵も作者の意図を追認させるような具体的な表現で,生々しく現代的で愉快であるが,率直に言えばあだ花のような提案にも見えた.こうした発想が街の風景として現れたときにそれは幸せな「遊び」になり得るのか.そのあたりに疑問が残った.

藤村龍至 審査委員

2019年の台風15・19号に続き,2020年は新型コロナウイルスが私たちの日常を全球的に襲った.「遊びのうえに暮らす」は昨年にも増す緊張感のなかで審査が行われた.1等の福留案は空間の「大きさ」を扱う.一見,建築計画学が探求してきた人間の規模・寸法・動線などの近代主義的な設計の原理を否定し,篠原一男の「住まいは広ければ広いほどよい」を肯定するものにも見える.ただ,この案の見どころは今さら計画学批判でも,最小限住宅への皮肉でもないだろう.コロナ禍で大都市の密集を避け,普及したリモートワークを前提に地方へ移住する若者らが長らく使われていなかった広々とした空き家にダイブした瞬間や,狭い空間に隔離された不自由な生活者が延々と仮想空間をサーフィンして時間を潰したあとに「大きさに遊ばれる」ような経験をするかもしれない.2等の菊池・小林案の多くの行動を内包した電話ボックス群や,白鳥・山口案(佳作)のバルコニーの舞台性が強調された集合住宅のような提案もまた,一見するとコロナ禍で人類が全球的に体験した個人と個人が隔離された生活を描いているように見える.だが福留案の「大きさ」や菊池・小林案の「ボックス」も,災禍を乗り越えたあとの新しい社会空間を描こうとしているように感じられた.それは個人と個人が離れているようで繋がり,存在は感じるけれども必要に応じて互いの距離を取れるような,ゲオルク・ジンメルの「橋と扉」のような空間原理がさらに鮮やかに見えてくる世界像かもしれない.

受賞作品展示会

会場 建築会館ギャラリー
所在地 〒108-0014 東京都港区芝5丁目26-20 建築会館 1F
展示期間

2021年2月15日(月)12:00~19:30

2021年2月16日(火)9:00~19:30

2021年2月17日(水)9:00~19:30

2021年2月18日(木)9:00~17:00

ウェブサイト https://www.aij.or.jp/

賞金

  • 1等[1点]
  •  
  • 100万円
  • 2等[1点]
  •  
  • 50万円
  • 3等[1点]
  •  
  • 30万円
  • 佳作[8点]
  •  
  • 各10万円
総額 260万円/すべて税込
  • 「新建築」2021年1月号で発表
  •  建築会館ギャラリーにて展示:2021年2月15日(月)~ 18日(木)

スケジュール

 

応募登録開始
作品受付開始
応募登録終了
作品受付終了
結果は入選者に通知いたします
2020年12月2日(水) 表彰式
2021年1月   『新建築』2021年1月号で発表いたします

応募要項

全て展開

登録方法

インターネットにて登録の場合は、本サイトの登録フォームよりご登録ください。


官製ハガキにて登録の場合は、下記作品送付先までご登録ください。


FAXにて登録の場合は、03-5244-9338までご登録ください。


インターネット登録には、「KENCHIKU」サイトのID・パスワードが必要となります。


お持ちでない方は、ID・パスワードを登録後、本コンペの登録を行ってください。


官製ハガキとFAXにて登録の場合「日新工業建築設計競技係」と明記し、住所、氏名(ふりがな)、年齢、電話番号、勤務先あるいは学校名(学年)、所在地、電話番号、e-mailアドレスを書き添えてお申し込みください。


ご登録いただいた方には登録票をお送りいたします。 複数の作品を応募する場合は、作品ごとに登録してください。


登録のお問合せ:日新工業建築設計競技事務局|03-5244-9335

用紙

A2サイズ(420mm×594mm)の用紙(中判ケント紙あるいはそれに類する厚紙)1枚におさめること。模造紙等の薄い用紙は開封時に痛む恐れがあるので避けること。ただし、パネル化・額装は不可。

提出図面

配置図・平面図・立面図・断面図、透視図・模型写真など、設計意図を表現する図面(説明はできるだけ図面のみですること。各図面の縮尺は自由)。表現方法は、青焼、鉛筆、インキング、着色、写真貼付、プリントアウトなど自由。

登録番号の記載 & 登録票

提出方法 & 作品送付先

下記へ送付してください。

日新工業株式会社「日新工業建築設計競技係」[必ず明記のこと]

〒120-0025 東京都足立区千住東2-23-4

TEL:03-3882-2613


持込み、バイク便は不可。


開封時に痛みやすいため、円筒状の梱包はご遠慮ください

その他

  • 応募作品は未発表の作品に限ります。
  • 本設計競技の応募作品の著作権は応募者に帰属しますが、入賞作品の発表に関する権利は主催者が保有します。
  • 応募作品は返却いたしません。
  • 同一作品の他設計競技との二重応募は失格となります。
  • 応募作品の一部あるいは全部が、他者の著作権を侵害するものであってはなりません。また、雑誌や書籍、Webページ等の著作物から複写した画像を使用しないこと。著作権侵害の恐れがある場合は、主催者の判断により入賞を取り消すことがあります。
  • 入賞後に著作権侵害やその他の疑義が発覚した場合は、すべて応募者の責任となります。
  • 入賞後の応募者による登録内容の変更は受け付けません。
  • 応募に関する費用(送付・税金・保険など)は、すべて応募者の負担となります。
  • 課題に対する質疑応答はいたしません。
  • 規定外の問題は応募者が自由に決定すること。

審査委員

西沢 立衛

審査委員長

平田 晃久

審査委員

吉村 靖孝

審査委員

羽鳥 達也

審査委員

藤村 龍至

審査委員

相臺 志浩

審査委員