テーマ

人間の家

昨年からのコロナ禍に生きる私たちは、感染拡大防止策・感染予防が最優先となる社会の中で、行動にさまざまな制約がかけられています。
生活が管理される中で、その必要性は理解しつつも抑圧状態にあると言えるでしょう。特殊な状況下においては、多様性が削がれ、問われていたはずのさまざまな課題も影を潜めてしまう、忘却という名の淘汰が起きているようにも思います。

ル・コルビュジエが著した『人間の家』(1942年発表、F・ド・ピエールフウと共著。鹿島出版会、1977年)では、第二次世界大戦中の疎開先から、ナチスに破壊されたパリの街をいかに再建するかという意欲的な都市計画案が示されました。
私たちも、このコロナ禍において、その先にある本質的でポジティブな提案を考え、投げかけることが大切なのではないでしょうか。
そこで、今回のテーマを「人間の家」としました。
身の回りの設えや、街の理想的なあり方でもよいでしょうし、制度的な提案になるかもしれません。これまでの家の枠組みを大きく超えて、幅広く考えてみてください。


みなさんの提案をお待ちしています。

「人間の家」を文字通りに捉えてもよいし、それをル・コルビュジエのように都市計画と捉えても、またはさまざまな生き物が同居する生態系のような大きな世界と理解してもよいと思います。それは、われわれの社会が目指すべき未来を予言するものになるかもしれません。自由に考えて、人間の生に相応しい世界を提案してください。

― 西沢立衛

脱人間中心主義や、ポストヒューマンが囁かれる今日、改めて「人間」を見つめ直すこと。「自然」が一筋縄に理解できないものであるのと同じように、「人間」もまた簡単に理解したり乗り越えたりできない。人間はこの先もずっと魅力的な謎であり続ける。なぜなら僕たちもみんな、人間なのだから。

― 平田晃久

「人間の家」を考えるには、まず人間とは何か定義しなければならないはずです。ルネサンス人にとっては比例かもしれないし、動物行動学者ならDNAの乗り物と言うかもしれない。地質学者なら最新地質年代の覇者でしょうか。今、この時代を生きる建築家にとって人間とは何か、斬新でかつ共有可能な定義に出会うことを楽しみにしています。

― 吉村靖孝

地球規模で生活習慣の変更を余儀なくされ、以前の生活には戻れない不可逆性を世界の人びとが実感し始めている。戻れない変化は常に起こっていたはずだが、昨今の状況はそれが世界的に共有されている稀な機会である。人間自体の捉え方や、生活の根源にある考え方に起こる不可逆な変化をもとに、どのような新しさが見出されるのか期待したい。

― 羽鳥達也

コロナ禍の社会においては、G.アガンベンのいうゾーエー(むき出しの生)とビオス(政治的な生)の対立が先鋭化している。社会が感染症対策のためにゾーエーの管理を求め、ビオスの存在が脅かされるためである。ここでは「人間の巣」や「動物の家」を想像したうえで、これからの「人間の家」を描いてみてほしい。

― 藤村龍至

新型コロナウイルス感染拡大は私たちの生活を変えてしまっただけでなく、価値観をも変えようとしています。しかし私たちが「住まう」ことについて、もう一度立ち止まって考えるよい機会なのかもしれません。多くの方々にアイデアを出していただき、それが活発な議論に繋がることを期待しています。

― 相臺志浩

結果発表

佳作

MEOR MOHD HARIS  KAMARUL BAHRINMike Foxtrot Imaginarium

FARAH ALIZA  BADARUDDINMike Foxtrot Imaginarium

佳作

ANDERSON WONGEmpt Studio

YUPENG GAOThe University of Melbourne (MSD)

YUTONG JINThe University of Melbourne (MSD)

佳作

ANNE GROSSStudio GROSS+PHD Student Tokyo Institute of Technology

SEBASTIAN GROSSStudio GROSS

ASAMI TOGAWAFreelance

作品講評

西沢立衛審査委員長

遠藤・陳・渡部案(1等)は,個々の人間の個性や活動に合わせて自由に形をかえる空間を提案した.中身の多様性が建築の自由になるというアイデアが評価されたが,「人間の家」というテーマについてもう少し人間の根源に迫るような考えがほしかったとも思う.尾石・廖案(2等)は,人間に厳しい自然地形を「人間の家」とみなす提案で,自然と人間の関係を明るく描いた.田代・百武案(3等)も同じように自然と人間の関係を問い直す提案で,大地と空,地下という地球の三要素を感じながら暮らす最小限住居を,手描きで表現した.寸法的にちょっと変な気がする.BAHRIN・BADARUDDIN案(佳作)は,塔状住居の提案で,上にいくに従い平面を変えていくその立体性が高く評価された.竹中案(佳作)は,無機質に並ぶ無味乾燥なボックスが,人間の働きかけによって多様性を帯びていく案で,物と人間の愛情がシンプルな形で示された.WONG・GAO・JIN案(佳作)は,自分が住む街を家の延長とみなして,都市空間のさまざまな余白で暮らしを楽しむ案で,不思議なドローイングだった.A.GROSS・S.GROSS・TOGAWA案(佳作)は,自然と家の繋がりを示す提案で,難解だったが,ドローイング全体に広がるのびやかな暮らしの快適性が評価された.山根・岩尾案(佳作)は,心の中と物的建築を合体させようとする提案で,内向的な雰囲気が多少気になった.小竹案(佳作)は,地球を一周する円環が地球人全員の共有財産となるというもので,その単純さと思い切りのよさが評価された.菊池・杉山・小林案(佳作)は,人間の村と森の境界線が住まいになるという提案で,自然と人工の両方を行き来する家の提案だった.家というよりも,フェンスのような装置が形を変えて人間の拠り所となる,という案で,ひとりの家というよりは共同体の誰もが使える家の提案かもしれない.ドローイングを含むプレゼンテーションの静けさ,繊細さが評価された.小田切・髙橋案(佳作)は,雪渓を参照した造形が評価された.

平田晃久審査委員

今年のテーマは例年にも増して普遍的である.いかようにも解釈できる門戸の広いテーマで,多彩な作品の審査は楽しかった.ただ,個人的には「人間」についての深い思弁を喚起することを意図した作品が少ないようにも感じられた.1等の遠藤・陳・渡部案は,人間の行為がそのまま家のカタチになってしまう極限的建築を提示している.これは言わば「反省」しない人間とでもいうのだろうか,自らの行為を振り返り統御する建築的秩序化を全く志向しない人間の家である.その意味では鮮烈な建築批判である.しかし,いささかも自らを省みない人間たちをもはや「人間」というのだろうか,また,だとするならば,そもそもこれは建築批判足り得ているのだろうか?「外形」という建築の根本問題を,鮮やかなグラフィックでうっちゃりつつ,この作品はそんな終わることのない物思いへと,あっけらかんと誘う.
その他,個人的に興味を覚えたのは,BAHRIN・BADARUDDIN案(佳作)の,単純な積層ではないユニークなタワーの造形.これは言わば,行為する人間に向けた有機的な場の連鎖と,省みる人間に向けたタワーという両極端の人間を接合した案だとも言える.またWONG・GAO・JIN案(佳作)の都市に寄生する極小空間のファンタジー,菊池・杉山・小林案(佳作)が提示する半ば打ち捨てられた風景を庭として再発見する視線なども興味深かった.
「剥き出しの生」だけが重要視されるかのような時代の中で,人間というものを確かな実感に基づいて,しかし注意深く考えることが,これからの建築にはことのほか重要である.今回の議論を通じて,そう実感した.

吉村靖孝審査委員

「人間の家」は,安易な手出しを拒む難しい問いかけだったかもしれない.今この時代にあり得るべき「人間の家」は,誰もが生命を謳歌できる豪奢な家というよりは,自分にとって本当に必要なモノやコトを改めて確認するささやかな場所に違いない,というところまでは共有できたようだが,それを建築的構想力でポジティブな未来へと反転するような案は多くなかった.そんな中,私が特に評価したのは,3等の田代・百武案である.人間の家は人間が自分でつくる家だというシンプルなメッセージから,かつてマルティン・ハイデガーがドイツの古語を引きながら「建てるとは,本来,住むこと」であると語ったことを思い出して共感した.ほかに,自分の内側から湧き出るかたちを3カ月間記録した山根・岩尾案(佳作),机の上の小さなモノたちを建築や都市へと拡張させる言葉が散りばめられたA.GROSS・S.GROSS・TOGAWA案(佳作)は,惜しくも佳作となったが,審査委員である私が続きを考えたくなるような仕掛けで,そこには継承を許容するある種の「かた」がある.「かた」があることで,単に個人的内面の外形化であることを超えて「人間の家」へと連なる普遍性の萌芽のようなものが感じられた.難しい課題設定だったが,われわれがこのコロナ禍の2年間,改めて考えざるを得なかった「人間」と「家」の新しい関係が,応募者たちを通して描き出される貴重な機会になった.

羽鳥達也審査委員

今回は,これからの人間とは何か,現代において家とは何かが問われていたわけだが,これは少々の社会状況の変化ではびくともしない普遍的な問いでもある.一方,新型コロナウイルスに限らず,クーデター,環境問題など,さまざまな事象が社会や環境に対する認識を揺さぶっている.そうした社会状況を反映してか,今まで以上に多種多様な提案が集まった.
佳作の小竹案は,この輪や影が各地でどのように扱われるのかを示せていたら,もっと評価を得たかもしれない.人が壮大なものを求める性質を,人間の共通項と設定した視点は面白い.
2等の尾石・廖案は,近年話題の不便益を街のスケールで表現した提案だが,都合よくつくられたテーマパークのようにも見えてしまったところが惜しい.ただ地形と暮らしという大きなビジョンを,具体的且つ抽象的に表現しようと挑んだ点は高く評価したい.1等の遠藤・陳・渡部案は,断面と散文詩的な文章で想像させる手法は,道半ばという印象も受けたが,人の生活の雌型である空間から推察される人間像は,豊かでたくましい人間を想像させそうで,今回のテーマに豊かで前向きなイメージを与えた作品だと思った.このコンセプトを具体的な建築にできるか,今後試みてほしい.
結果から見れば,時事の情報に捉われず,思考が自由であることが問われるかたちになったと言える.問いにすら捉われることなく,提案すべきことは何かを考える自由さや鈍さは時に重要な投げかけをすることがある.不確実な時代と言われる状況において,鈍くあることは時代を跨いで存在する建築の重要な役割であると,審査を通じて再認識させられた.

藤村龍至審査委員

総じて人間の動物性に着目したゾーエー(むきだしの生)を支える「人間の巣」の提案が多く,動物の人間性を強調することでビオス(政治的な生)を扱う「動物の家」の提案が少なかったと感じた.
1等の遠藤・陳・渡部案は,アリの巣のような地下空間の断面図に点景が描かれ,文字通り「人間の巣」の提案である.資源を求めて国境の外に領土を求めようとした1930年代のナチス・ドイツのレーベンス・ラウム(生存空間)や1990年代から広まったエコロジカル・フットプリントの概念を思い浮かべれば,欲望に任せて無限に拡大しようとする帝国主義や人新世における資本主義の限界など,寓話的にも読むことができる.2等の尾石・廖案は,人間の動物化を助長する平滑なジャンクスペースが拡大する現代都市で,多様な傾斜面を持ち込むことによって人間性を取り戻す試みであると読めるのかもしれない.3等の田代・百武案は,掘る・積む・組むという還元的な操作によって人間と大地が関係性を取り戻すというストーリーであった.
そのなかで佳作の竹中案は,人間が集合して暮らし,互いにせめぎ合う中で家の形を見出していくというストーリーを通じて,同じく佳作の小竹案は地球全体を家に見立てる構想力を通じて,ビオス(政治的な生)を問題にしていると感じた.2案とも人間と動物を等価に扱うことなどを通じて「動物の家」としての側面も描いていれば,さらに響く提案となったのではないか.

受賞作品展示会

会場 建築会館ギャラリー
所在地 〒108-0014 東京都港区芝5丁目26-20 建築会館 1F
展示期間

2022年2月14日(月)12:00~19:30

2022年2月15日(火)9:00~19:30

2022年2月16日(水)9:00~19:30

2022年2月17日(木)9:00~16:00

ウェブサイト https://www.aij.or.jp/

賞金

  • 1等[1点]
  •  
  • 100万円
  • 2等[1点]
  •  
  • 50万円
  • 3等[1点]
  •  
  • 30万円
  • 佳作[8点]
  •  
  • 各10万円
総額 260万円/すべて税込
  • 「新建築」2022年1月号で発表
  •  建築会館ギャラリーにて展示:2022年2月14日(月)~ 17日(木)

スケジュール

 

応募登録開始
作品受付開始
応募登録終了
作品受付終了
結果は入選者に通知いたしました
2021年11月29日(月) 表彰式
2022年1月   『新建築』2022年1月号で発表いたします

応募要項

全て展開

登録方法

インターネットにて登録の場合は、本サイトの登録フォームよりご登録ください。


官製ハガキにて登録の場合は、下記作品送付先までご登録ください。


FAXにて登録の場合は、03-5244-9338までご登録ください。


インターネット登録には、「KENCHIKU」サイトのID・パスワードが必要となります。


お持ちでない方は、ID・パスワードを登録後、本コンペの登録を行ってください。


官製ハガキとFAXにて登録の場合「日新工業建築設計競技係」と明記し、住所、氏名(ふりがな)、年齢、電話番号、勤務先あるいは学校名(学年)、所在地、電話番号、e-mailアドレスを書き添えてお申し込みください。


ご登録いただいた方には登録票をお送りいたします。 複数の作品を応募する場合は、作品ごとに登録してください。


登録のお問合せ:日新工業建築設計競技事務局|03-5244-9335

用紙

A2サイズ(420mm×594mm)の用紙(中判ケント紙あるいはそれに類する厚紙)1枚におさめること。模造紙等の薄い用紙は開封時に痛む恐れがあるので避けること。ただし、パネル化・額装は不可。

提出図面

配置図・平面図・立面図・断面図、透視図・模型写真など、設計意図を表現する図面(説明はできるだけ図面のみですること。各図面の縮尺は自由)。表現方法は、青焼、鉛筆、インキング、着色、写真貼付、プリントアウトなど自由。

登録番号の記載 & 登録票

提出方法 & 作品送付先

下記へ送付してください。

日新工業株式会社「日新工業建築設計競技係」[必ず明記のこと]

〒120-0025 東京都足立区千住東2-23-4

TEL:03-3882-2613


持込み、バイク便は不可。


開封時に痛みやすいため、円筒状の梱包はご遠慮ください

その他

  • 応募作品は未発表の作品に限ります。
  • 本設計競技の応募作品の著作権は応募者に帰属しますが、入賞作品の発表に関する権利は主催者が保有します。
  • 応募作品は返却いたしません。
  • 同一作品の他設計競技との二重応募は失格となります。
  • 応募作品の一部あるいは全部が、他者の著作権を侵害するものであってはなりません。また、雑誌や書籍、Webページ等の著作物から複写した画像を使用しないこと。著作権侵害の恐れがある場合は、主催者の判断により入賞を取り消すことがあります。
  • 入賞後に著作権侵害やその他の疑義が発覚した場合は、すべて応募者の責任となります。
  • 入賞後の応募者による登録内容の変更は受け付けません。
  • 応募に関する費用(送付・税金・保険など)は、すべて応募者の負担となります。
  • 課題に対する質疑応答はいたしません。
  • 規定外の問題は応募者が自由に決定すること。

審査委員

2021年10月1日(金)に 応募登録終了