三等
ANTON GORLENKOGorlenko Studio
ALIYA SHIGAPOVAGorlenko Studio
SOFIA KOROTKOVAGorlenko Studio
EKATERINA POSTOYUKGorlenko Studio
嵐は、荒く激しく吹く風を意味する自然現象です。
時として雨や雷や雪をともなう、気象と結び付いた言葉といえます。比喩的に、激しく平安を乱す物事や荒れ狂う様子を、嵐になぞらえることもあります。嵐は、具体的な現象であると同時に、社会や価値観のゆらぎ、転換期を示す抽象的な概念でもあります。
今、変化の時を迎えている私たちの暮らしや時代を写し出すのではないでしょうか。一方で、もう少し自らの感覚に引き寄せて、考えてみてもよいかもしれません。吹き荒れる風や雨という圧倒的な自然の力を前に、時として、爽快感や高揚感を抱くこともあるでしょう。子どものようにわくわくしたり、ずぶ濡れになってみたり、嵐のあとに広がる風景に想いを馳せたり……。「嵐」は、語られる文脈によって、さまざまなニュアンスを内包します。「家」の枠組みも、幅広く捉えることができるでしょう。「嵐の家」をどう読み解くか、ひとりひとりに委ねられています。自由な発想で、考えてみてください。みなさんの提案をお待ちしております。
日本語の世界では、嵐は色々なニュアンスがあります。それはまず自然の猛威を意味します。または、社会の中での革命的な存在や、物事の価値観をひっくり返す創造的存在のことを意味することもあります。つまり「嵐の家」は、「嵐の中の家」とも受け取れるし、建築そのものが嵐であるような状態も考えられます。大自然と共に生きる家、人間社会を変革する建築、色々な嵐を創造してくださることを期待しています。
― 西沢立衛
さまざまな解釈を誘う、オープンなお題である。しかもそこに嵐が関わっている。嵐は突然やってくる。嵐は慣れ親しんだ視界を別のものに変える。嵐は日常的な価値の序列をひっくり返す。嵐は平時にはあり得ない可能性を浮かび上がらせる。最初の生命も、そんな嵐の中で生まれたに違いない。
― 平田晃久
字義通りなら荒れ狂う風雨に代表される厳しい天候を想像すればよく、嵐に対峙し、その最も根源的な性能を発揮して安寧をもたらす建築こそ「嵐の家」なのだと言うことができるかもしれません。逆に、退屈を吹き飛ばす力に期待した、嵐を呼ぶ「嵐の家」もあり得ます。どう定義するにしても、この荒れ狂う世界に新たな問いを投げかけるような提案を期待します。
― 吉村靖孝
災害、感染症、エネルギーなど、さまざまな変化に加え、紛争の危機が前景化している。日ごとに既成の考え方を問い直される時代であるが、建築はいつの時代も希望を見出すきっかけを与えるものであってほしい。人の価値観を揺るがし、波紋のように連鎖して社会を変え得る、これまでの「建築」そのものを揺さぶる家を考えてほしい。
― 羽鳥達也
1995年から2020年までの25年間は「小さいこと」がよく語られた。気候変動(物理的な嵐)と国際紛争(社会的な嵐)が同時進行し、家族と空間の伝統的な枠組みが揺らいでいる中、「嵐」の「家」とは何かを考えることは私たちを再び「大きな」問いに挑ませる。そしてそれが具体的な建築として描かれたい。
― 藤村龍至
「嵐」という言葉は、人びとに荒々しい気象や時流を連想させます。 昨今の感染症の拡大や政情不安も嵐のひとつといえるでしょう。その一方で「麦嵐」のように、麦の収穫の頃に吹きわたる、心地よい爽やかな風を感じる人もいます。さまざまな見方ができる「嵐の家」。新しい提案に出会うことを楽しみにしています。
― 相臺志浩
嵐をどう解釈するかによってかなり案が異なり,多彩な提案を楽しめた.杉浦岳・杉浦麻理・関沢案(1等),謎の石造構造物が,嵐のたびに川の下流に流され,都度,人びとに異なる解釈で受け入れられ,あるいは神々しい存在としてすら現れる.という壮大な時間的スケールを持ったファンタジーである.PICAPER案(2等)は,比較的普通の箱の中ですら,わずかに窓を開けたり,床を取り除いたり,シャワーの雨を降らせれば,そこには嵐のような空気の振る舞いが現象することを美しく描く.
GORLENKO・SHIGAPOVA・KOROTKOVA・POSTOYUK案(3等)は,人びとの生活そのものが嵐で,建築はそれに抵抗しつつ時に砕かれる存在として,稠密なプランのドローイングを通して浮かび上がらせる.
その他にも,河野・榊原案(佳作)は北海道を舞台にして,嵐の吹く原野に人が住むということを可能にしている防風林の並木に着目し,その配置や時間の中での変化そのものを家として再解釈している.また,MINWOO案(佳作)は戦争から子どもたちを守るバリケードとしての建築を,クラシカルな建築のミニアチュールを組み合わせた,空間を多重的フレーミングを持つユニークな表現手法で描いていた.
ブレーンストーミングというように,嵐というものは,それまでに凝り固まったさまざまな考え方を一度御破算にし,宙に舞わせるような役割を持っている.入賞した提案はその意味での嵐と,現実の嵐のあいだに響きを見出すようなものばかりだった.
映画「ミクロの決死圏」では,ミクロ化した医療チームが患者の大嵐のような体内を巡るシーンが有名だが,今回の入賞作にも,寸法や時間の尺度を変えて観察/建設すればそこに嵐が出現するとした案が多く見られた.
たとえばPICAPER案(2等),岩間案(佳作),三枝案(佳作)は寸法の解像度を,野中案(佳作)は時間の尺度を変えて,日常がどこかで嵐と地続きであること,あるいは,日常そのものがすでに嵐であるという「気づき」を与えてくれる.
その他の,まさしく嵐のごとく荒々しい形態や筆致で嵐を表現する多くの落選案には,心が動かされなかったのだが,解像度のチューニングを促される.ある意味では静かな嵐の存在を理解できた瞬間の,私のシナプスを行き交う電気信号はきっと嵐のようであっただろうと想像し,妙に納得した.
一方,杉浦岳・杉浦麻理・関沢案(1等)は,「気づき」ともまた少し違う淡々としたナラティブを描いている.奇妙な形をした岩が,嵐の度に下流へと流されて行き,行く先々で違う使い方をされる.流れ着いた時の向きや,土地土地のコンテクストによって,物干しになったり,キオスクになったり,はたまた信仰の対象になったようにも見える.
そこには,形態と機能の関係,あるいは信仰や権力に対する冷ややかな眼差しがある.嵐が各越境のトリガーとなっており,嵐に対する信頼とでも呼べそうなポジティブな感覚が呼び起こされて,感動した
「嵐の家」というテーマに対して,さまざまな解釈で嵐を扱った作品が応募されたが,受賞作はどれもそれが独特で面白く,個人的な理解とともに各案を紹介したい.
スタディの際に無数に思い浮かぶ形を,最終的に選択した形の周りにうごく嵐とした澤田案.嵐にも対応する小さなドローンの群れが覆う,輪郭を持たない領域を家としたCHEN案.子どもの自由な発想を大人にとっての前向きな嵐とした髙橋・小林案.古くなっていく離れと新しくなっていく母屋の対比を嵐とした野中案.戦争という嵐から子どもたちを守る,動く建築群を提案したMINWOO案.プールサイドの些細な出来事をささやかな嵐と捉えた三枝案.人が暮らすための環境改変を,人工林に多様性をもたらす嵐としてその変化を描いた岩間案.嵐とともに変化し備えてきた集落全体を,大きな家と解釈した河野・榊原案.これらが佳作に選出された.
3等は,部屋の配置を組み替える単純な操作で,通常の家とは異なる体験を想像させるGORLENKO・SHIGAPOVA・KOROTKOVA・POSTOYUK案.2等は嵐のような気象現象が起こり得る巨大な空間を家とし,文字通りの「嵐の家」を描いたPICAPER案が選ばれた.1等には,洪水が無目的な形の重い塊を運び,その塊が各々の流域で人びとをインスパイアし,多様な使われ方をしていった一連の物語を描いた杉浦岳・杉浦麻理・関沢案が選ばれた.嵐に対する複数の意味が重ねられているようにも感じられ,洪水によって物体が動物のように動き,住民に親しまれていく様には環境と建築と人の緩やかで新しい関係を感じた.
「嵐」をどのように読んだか,そしてそれをどのように建築の問題にフィードバックし,どのように描くか.アイデアコンペならではの創造性が発揮された.折しもウクライナで戦争が勃発したところであった.直接的に戦争を主題にしたMINWOO案(佳作)やリテラルに嵐を描いたもの,カオスを描いたもの,環境問題など大きな問題を嵐と描いたものなどもあったが日常を嵐と解釈した野中案(佳作)など.嵐という言葉の響きから,瓦礫が集積したような,離散的な全体性を描くビジュアルが多かったように思う.そのような中で比較を重ねていくと,離散性と同時にどこか連続性も同時に描こうとしている案のほうが印象に残った.離散的であることと連続的であることは一見相反するのだが,水平方向では分断が加速する一方で垂直方向では温暖化の問題が迫る今日の地球では分断をただ観察するよりも,違いや多様性を認めながら連続を強調し利害を調停しようとする態度こそがアーキテクトに求められていると感じられるからである,
岩の構造物が転がりながら旅をする杉浦岳・杉浦麻理・関沢案(1等)には個別のコンテクストでの個別の使われ方が並列的に描かれつつも、形態が宙吊りになることや川の上を流れていくという設定によって離散的であるとも連続的であるとも言えるようなハイブリッド性が表現されているように感じられた.
PICAPER案(2等)にも大きな建物のなかでの室内での出来事に見せながら、スケールが宙吊りになることで個別の事象なのか一体的な事象なのかが判断できない状況が見て取れ,批評性を感じた.
会場 | 建築会館ギャラリー |
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所在地 | 〒108-8414 東京都港区芝5丁目26-20 建築会館 1F |
展示期間 | 2023年2月13日(月)12:00~19:30 2023年2月14日(火)9:00~19:30 2023年2月15日(水)9:00~19:30 2023年2月16日(木)9:00~16:00 |
ウェブサイト | https://www.aij.or.jp/ |
応募登録開始 | ||
作品受付開始 | ||
応募登録終了 | ||
作品受付終了 | ||
結果は入選者に通知いたします | ||
2022年11月16日(水) | 表彰式 | |
2023年1月 | 『新建築』2023年1月号で発表いたします |
全て展開
登録方法
インターネットにて登録の場合は、本サイトの登録フォームよりご登録ください。
官製ハガキにて登録の場合は、下記作品送付先までご登録ください。
FAXにて登録の場合は、03-5244-9338までご登録ください。
用紙
A2サイズ(420mm×594mm)の用紙(中判ケント紙あるいはそれに類する厚紙)1枚におさめること。模造紙等の薄い用紙は開封時に痛む恐れがあるので避けること。ただし、パネル化・額装は不可。
提出図面
配置図・平面図・立面図・断面図、透視図・模型写真など、設計意図を表現する図面(説明はできるだけ図面のみですること。各図面の縮尺は自由)。表現方法は、青焼、鉛筆、インキング、着色、写真貼付、プリントアウトなど自由。
登録番号の記載 & 登録票
提出方法 & 作品送付先
下記へ送付してください。
日新工業株式会社「日新工業建築設計競技係」[必ず明記のこと]
〒120-0025 東京都足立区千住東2-23-4
TEL:03-3882-2613
その他
西沢立衛審査委員長
「嵐の家」という課題で,まざまな嵐が提示された.各案の嵐の違い,想像力の広がりが,たいへん印象的だった.
杉浦岳・杉浦麻理・関沢案(1等)は,巨岩が何百年もかけてナイル川を下ってゆくという案で,そのスケールの雄大さが高く評価された. PICAPER案(2等)はまさに嵐の家で,描写の巧みさが印象的だった.GORLENKO・SHIGAPOVA・KOROTKOVA・POSTOYUK案(3等)は,大きな宴の後のような,または日常の家の風景のような,または戦争で放棄された家のような,さまざまに解釈できる余地を感じさせた.
河野・榊原案(佳作)は,北海道の開拓の歴史を通して,人間の生きる営みを大地的・歴史的大きさの中で描き,その詩情が評価された.髙橋・小林案(佳作)は,家での子どもの活動を嵐と捉え,それを前向きに捉える大人の世界を愛情豊かに描いた.
CHEN案(佳作)は,ドローンの群れが空中でドーム空間をつくるという奇抜なアイデアが面白かった.
澤田案(佳作)は,大小さまざまな図形がひたすら並んでゆくというもので,秩序と無秩序を両立させるイメージが評価された.岩間案(佳作)は人工林が自然にかえってゆく過程を描く案で,人間を嵐と見立てたのだろうか.三枝案(佳作)は,静かな住宅の世界と嵐とのギャップが印象的だった.MINWOO案(佳作)は,戦争から子どもを守る動く建築キットの提案だろうか.詳細不明ながら,今の時代の不安や嵐のイメージを的確に描いた.野中案(佳作)は,古い倉庫と新しい建売住宅の対比から農村の風景を描いたが,どこが嵐なのかはよく分からなかった.